ヨーロッパの新しい商標について of 伊藤吉田国際特許事務所

ヨーロッパにおける色の商標及び音の商標及びその他の関連する商標

1. はじめに

 欧州共同体商標規則(the Community Trade Mark Regulation:これ以降、CTMRと記します)の中では、商標として登録できる標識の定義を下記のように述べています。

「~異なる商業主間の商品やサービスをその標識によって出所表示ができるのであれば、図形的に、人名を含む特定の言葉、デザイン、文字、数字、商品あるいはパッケージの形を用いて表せる、いかなる標識」(CTMR 第4条)

 上記の規則に色や音に関しての記述はありませんが、欧州共同体商標意匠庁(the Office for Harmonization in the Internal Market:これ以降、OHIMと記します。)では色や音も商標として認められています。以下具体例及び出願に際しての色や音の表現方法についてご説明します。

2. 色の商標

単色の商標出願

 出願された色がその商品およびサービスに用いられていることや、使用による識別力を獲得しているか否かを判断します。特に以下の場合は、登録に対して肯定的な影響があるでしょう。
 1. その色が極端に限られた商品に用いられる場合
 2. その色が商品の特徴上、明らかな機能を有していない場合
 3. その色が商品そのものの自然な色合いでない場合
また、いわゆる使用による識別性の獲得も登録に有利に働きます。

色の組み合わせの商標出願

 単色の商標登録時の審査基準と同様に、色の組み合わせに関しても識別力を獲得しているかどうかが判断の基準となります。標識の使用などにより識別性を獲得した場合はそれを正式に証明する必要があります。また申請書においては、色の輪郭部を空間的に示すことが求められる場合もあります。また、各色の位置や割合の説明が必要である場合もあります。後述する判例では、位置の商標の判例も載せております。

3.音の商標

 音の表現は難しいですが、基本的に楽音に関しましては、音符(楽譜)が受理されます。楽音以外の音(動物の鳴き声など)を含む出願であれば、対応する音を収録した電子ファイルを提出します。オシログラム(波形図)は、音の特定には適用できませんが、音の説明として使用できる場合があります。

4.色の商標等 - 最近の判例と登録例

KWS Saat AG v OHIM 登録拒絶例

共同体商標出願番号002037356
出願日2001年2月5日
判決日2004年10月21日

KWS Saat AG(これ以降、出願者と記します。)は種子や種子及び植林のための防虫などの処理剤に対してオレンジ色の単色を共同体商標として申請しました。しかし、OHIMも第一審裁判所においても、申請されたオレンジ色はその指定商品において独創性も目新しさもない色であり、識別性が乏しいとして、商標登録を拒絶されていました。その後、出願者は欧州司法裁判所に上訴しましたが、申請されたオレンジ色は使用による識別性を獲得していないとして認定されました。

なお、使用による識別性を獲得していない場合であっても、例外として、
 1) 指定商品あるいはサービスがかなり限られている場合、及び
 2) 関連する市場がかなり限定的である場合
は商標登録される可能性がありますが、本件はその様な例外には当てはまらないと判示されました。
KWSSaat色商標.jpeg

Appl. X-technology Swiss GmbH v OHIM 登録拒絶例

共同体商標出願番号 005658117
出願日 2007年1月13日
判決日 2011年5月16日

Appl. X-technology Swiss 株式会社(これ以降、出願者と記します。)は靴下のつま先のオレンジ色が塗られた部分について2007年に位置商標を商品区分として洋服、ストッキング、靴下を選択して、OHIMに出願しました。しかし、識別性を欠く商標として、登録を拒絶されました。その後、出願者の申し出により、OHIMの審判部にて登録の是非について争われました。
まず、出願者は申請書の中で「位置商標」として説明していることに関して、OHIMの審判部は位置商標という分類は法律上存在しないため、立体商標あるいは図形商標として出願されるべきだと見解を示しました。更に、下記の理由でOHIMの拒絶理由は正しいと判断し、出願者からの申し立てを退けました。
 1. 既存の他の靴下商品に見られるデザインであること。
 2. オレンジ色も靴下という商品にごく普通に用いられる色であること。
 3. つま先を補強する機能があるデザインに見えること。
 4. 消費者はつま先部分に塗られたそのオレンジ色が出所識別機能をもっているとは気づかないこと。
その後、最終的に欧州司法裁判所で以下の二点について審理されることになりました。
 1. 位置商標という記載は誤っているか。
 2. そのマークは識別性を有しているか。
1に関して欧州司法裁判所は、法律に全ての商標の種類が示されているわけではなく、またそのマークが識別力を有しているかいないかという本質的な問いではないとしました。さらに、2に関しては、つま先の補強には関係がないことを出願者は証明する必要があるとともに、そのつま先のオレンジ色が商品の出所識別能力を有していないというOHIMの審判部の判断が指示され、登録申請の拒絶が妥当とされました。
X-tech位置商標.jpeg

共同体商標出願番号002534774 登録例

出願日2002年1月15日

青色が半分と銀色が半分の色商標は飲料を指定商品としてRed Bull株式会社が申請し、2005年に欧州共同体商標として登録されました。
RedBlue色商標.jpeg

色商標に関する最近の欧州連合司法裁判所*の判決  

*2009年に欧州司法裁判所から欧州連合司法裁判所へ名称の変更がありました。

出願日 2002年2月7日
判決日 2014年6月19日

原告:Deutscher Sparkassen-und Giroverband eV (以下D社)
被告:Banco Santander SA and another(以下S社)、Oberbank AG(以下O社)

D社のドイツ商標登録番号: 30211120
DSGV銀行.jpg

S社の共同体商標登録番号:009415605
Santander商標.jpeg

O社の共同体商標登録番号(文字商標、下記は使用例):006535389
oberbank.jpg


ドイツのD社は1960年代より特定の赤色を使用しており、2007年には商標登録(以下、本商標と記します。)をしました。近年、他の銀行(オーストリアを本拠地とするO社とスペインを本拠地とするS社)が用いる赤色について商標権侵害で提訴しました。一方、訴えられた二つの銀行はそれぞれの国において赤色を使用していたこと、またEU内では移動の自由が保証されていることを頼りに、商標によりドイツ市場参入を防ぐのは違法と訴え、ドイツ特許商標庁に本商標登録無効を求めました。ドイツ商標特許庁は、商標登録は正当におこなわれており、本商標は無効ではないと判断しました。

その後、ドイツの連邦特許裁判所(Federal Patent Court)で争われ、D社は本商標によりD社を認識する消費者は65%以上であったと消費者調査の結果を示しました。しかし、裁判官は少なくとも消費者の70%は本商標からD社を認識する必要があると判示しました。その一方で、使用による識別性の獲得については議論の余地があると、欧州連合司法裁判所に判断をゆだねました。

欧州連合司法裁判所以下の点を判示しました。
 1. 1989年に公布された欧州商標指令(the Trade Mark Directive:以下TMDと記します。)の下では商標の使用により識別性を獲得したかどうかの判断は、消費者調査だけでは決められないと判示しました。
 2. 基本的には、識別性はその商標が出願される前に獲得されるべきだと判示しました。しかしながら、TMDの下では特例として申請後に獲得された識別性についても考慮する必要があるとされている事から、加盟国の裁判所がその特例を用いるかどうかは各々判断すべきであると判示しました。
 3. しかしながら、基本的には出願者が出願以前から識別性が獲得されていたと証明できない場合は、その商標は無効であるべきだと判示しました。

今後のこの欧州連合司法裁判所の判断を下にドイツ国内で裁判が進められます。