プロダクトバイプロセスクレームについての最高裁判決

 はじめに

 平成27年6月5日 最高裁小法廷にて、平成24年(受)第1204号特許権侵害差し止め請求事件に関する判決が出されました。この判決は知財高裁への差し戻し判決ですが、その内容について、ご紹介いたします。

第1.プロダクトバイプロセスクレームとは

 特許の対象である発明のカテゴリーは、大別して「物(物質、装置)」と、「方法」と、に分けられます。

 物の発明の場合は、その構造、仕組み、成分等で発明の内容を特定する場合が多いですが、しばしば、その製法を用いて特定されることもあります。このように製法で内容を特定された物の発明のクレームを、プロダクトバイプロセスクレームと呼びます。以下、PBPクレームと呼びます。

 例えば、
 「A物質を基板に堆積するステップと、
 酸素雰囲気で300度で加熱するステップと、
 水素雰囲気で100度に維持するステップと、
で形成した半導体基板。」

 のように、それを製造したステップで対象である物を特定するクレームです。
 このようなPBPクレームにおいては、記載された製造方法以外の他の方法で製造された物に、権利は及ぶのか? という論点がありました。

第2.原審 平成22年(ネ)第10043号特許権侵害差止請求控訴事件(大合議)

の判示内容の概要

(1)非真性PBPクレーム:物の特定をその構造又は特性により直接特定することが出願時において不可能又は困難であるとの「事情」が存在するときでない限り、特許請求の範囲に記載された製造方法により製造される物に限定して確定される。
 真性PBPクレーム:上記「事情」が存在するときは、逆に、請求項にある製造方法以外の方法で製造された物にも権利範囲は及ぶ、と解される。

(2)本件は上記(1)の「事情」が存在するとは言えないので、本件の技術的範囲は、製造方法により製造された物に限定して確定されるべきである(非真性PBPクレーム)。

(3)被告製品は、製造方法の一部を欠く製造方法で作製されているから、本件発明の技術的範囲に含まれない。→非侵害との判断。

 「」は、弊所にて付加しました。以下、本文では、事情は、上記「事情」を表します。

第3.最高裁判決平成24年(受)第1204号特許権侵害差し止め請求事件の判決内容(一部抜粋)

 最高裁は、下記の通り判断しています。

 (1)PBPクレームの技術的範囲

 まず、所定の「事情」が存在する時でない限り、製造方法により製造する物に限定~と原審の基準(1)は是認できない、と指摘しており、その上で、

 「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合であっても,その特許発明の技術的範囲(注;権利範囲)は,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として確定されるものと解するのが相当である。」と判示しています。(注は、弊所にて挿入)

 (2)明確性

 さらに、同最高裁判決は、特許請求の範囲の明確性について言及しており、そもそも物の発明において、その製造方法が記載されているものは技術的範囲を限定しているか否か不明であると指摘している。その上で、結論として、「物の発明についての特許に係る請求の範囲(注;権利範囲)にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に言う「発明が明確であること」という要件に適合すると言えるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である。」と指摘しています。

 したがって、上記「事情」が存在しない場合について、そのような記載を「一般的に許容しつつ、その特許発明の技術的範囲(権利範囲)は、原則として、特許請求の範囲に記載された製造方法により製造された物に限定して確定されるべき物とした原審の判断には、~(途中略)~法令違反がある。」

 よって、さらに審理を行わせるため、原審に差し戻す。と指摘しています。

 ※最高裁判決は、他の意見を種々含んでおりますが、本文では省略します。

第4.検討

 (1)まず、注目すべきは、PBPクレームにおいて、PBPクレームで示された製造方法と異なる製造方法で製造された同一物に対しても、権利範囲(技術的範囲)に含まれると判断された点です。
 これによって、プロダクトバイプロセスクレームに関しては、物として同一であれば、製造方法が異なっても技術的範囲に含まれるという判断が確定されたと言えるでしょう。
 この判断は、一見、発明者・権利者側に有利なようにも見えます。しかし、これは真性PBPクレームに関してですので、非真性の場合は、逆に不利にもなりかねません。特に次の(2)も十分に検討する必要があるかと思われます。

 (2)さらに、最高裁判決は、原審(知財高裁)で言う真性PBPクレームの場合のみPBPクレームは認められ、それ以外は、特許法第36条第6項2号違反に該当する可能性を指摘しており、この点について審理を尽くさせるため、原審に差し戻すと指摘しております。
 これは、原審(知財高裁)において、非真性PBPクレームの場合は、36条6項違反であるとしているものであり、要するに無効理由があるという指摘であります。
 これは、無効審判を請求する場合の攻撃材料が増えることを意味し、比較的多くの現状成立している特許の無効理由として使われる可能性が出てくるとも考えられます。

 (3)以上述べたように、第1に、真性PBPクレーム(製造方法で特定せざるを得ない物)であれば、その権利範囲は、他の製造方法で製造された同一物にも及ぶ、という原審の判断自体は否定されていないので、真性PBPクレームについてのこの解釈はほぼ確定したと考えてよいでしょう。
 一方、非真性PBPクレーム(製造方法で特定する特段の事情がない物)の場合は、無効理由があると判断されてしまう可能性もあり、今後慎重な対応が必要となるかと考えられます。
 PBPクレームは、種々の場面で使用されている物であり、実務的には今回の最高裁判決は注目する大きな価値があるかと存じます。

※なお、本文の記述に関して、は弁護士服部謙太朗先生のアドバイスを頂きました。