サトウの切り餅事件 その2 of 伊藤吉田国際特許事務所

判例に思う

上下面ではなく側面に溝を設けた、の解釈を争ったサトウの切り餅事件 -その2-


サトウの切り餅事件での第2訴訟の展開 -概要-

サトウの切り餅事件とは、切り餅に入った「切り込み」の特許をめぐるサトウ食品と越後製菓の間の訴訟事件です。2012年3月22日に、知財高裁では越後製菓の主張をほぼ認める判決がでています。その後サトウ食品が上告していますが、この裁判を便宜上第1訴訟と呼びます。

さらにその後、越後製菓は、別の特許に基づき、商品の幅を広げた訴訟をサトウ食品に対して提起したと、ニュース記事が報道されています。

サトウ食品がダブルで敗訴の可能性が高いとの専門家の指摘や、サトウ食品側は採用されなかった大量の証拠を見てもらえるチャンスだと捉えている等、様々な専門家の見解があるようです。

ここでは、この事件を判断する際に覚えておきたいいくつかのポイントや、そこから学ぶべき点等を、見ていきましょう。


(1)知財高裁における中間判決と、採用されなかった証拠

サトウ食品が知財高裁でその主張が認められなかった理由は、中間判決が出た後、急いで種々の証拠を出したものの、時期が遅かったためにその主張が認められなかったからだとする見解が散見されます。

  • (a)近年の裁判は早い

裁判になると何年もかかると言われていますが、近年は、ユーザー側の要求もあり、かなり早くなっています。特に、「時期に遅れた主張」は採用されないこともあり、下手をすると故意に遅くしていると見られてしまうことにもなりかねません。

1審が1年程度で終結することがもはや普通ですし、2審、3審になればもっと早くなります。したがって、裁判になったら、とにかく急いで証拠をそろえることを考えるべきでしょう。

  • (b)無効論・侵害論・損害論と中間判決

裁判では、中間的な判断がしめされる(中間判決)ことがよくあります。

例えば、損害賠償請求を考えてみましょう。

このような損害賠償請求では、審理は

  • 侵害しているのかどうかの判断(侵害論)
  • 侵害している場合、その損害の額を決定(損害論)

のように、判断が進んでいくことが普通でしょう。

実際には、全てが渾然一体となって議論が進む場合も多いですが、なるべく整理して判断を進めようと思えば、上記のような流れで判断が進むことにります。

さらに、最近では、その権利(特許権)の有効・無効も裁判で判断され(無効論)る場合が多いので、都合3段階の判断になることもあり、それぞれに中間的な判断がなされる場合もあります。

特に、裁判官が、侵害していない・権利が無効である、との心証を得た場合には、そのような中間的な判断が示される傾向にはあるようです。

したがって、各段階の判断のそれぞれについて、反論(主張)の骨子や、証拠を十分にそろえておくべきでしょう。

※ただし、権利の有効・無効は、本来は裁判所ではなく特許庁の無効審判で争うものです。特にごく最近では、再び裁判所ではなく、特許庁における無効審判の判断で権利の有効・無効を決めようとする判決が増えているようです。

(2)先使用権の主張

越後製菓の特許出願前から、サトウ食品が、その特許製品である切り餅を製造・販売していれば、いわゆる先使用権を有する場合があります。

サトウはその先使用権を主張したかったようですが、先使用権の主張は一見簡単そうですが、実際にはかなり大変な場合があります。

製造・販売当時のカタログやパンフレット、設計図面、販売の売上票などがあれば簡単に証明できそうです。しかし、何年も前の書類は、御社には残っているでしょうか?案外ないのではありませんか?

それでも、近年はありとあらゆるデータが電子化されているので、昔に比べれば多少は過去のデータを見つけることも容易かもしれません。また、現代は、HPに掲載しておけばWEBアーカイブされていることも多く、
http://web.archive.org/
等を利用して、昔のデータを探し出すことができるかもしれません。

サトウ食品の場合、イトーヨーカ堂を通じて商品を販売していたようですが、それにしても当時の「餅」を証明することは少し考えただけでも難しそうです。そのため、ライバル社の社長の陳述書等を提出したとのことも、無理からぬことかもしれません。

みなさまもこの機会に、貴社の10年前の製品を製造していた事実を証明できるかどうか、証明する書類を提出できるかどうか、一度確認してみてはいかがでしょうか。


参考

平成21年(ワ)第7718号特許権侵害差止等請求事件
東京地裁 平成22年11月30日判決

平成23年(ネ)第10002号 特許権侵害差止等請求控訴事件
知財高裁 平成23年9月7日 中間判決