ノウハウと特許出願

はじめに

 ノウハウにはあまり明確な定義はありませんが、例えば、国際商業会議所においては、そのノウハウ保護基準条項(1960年)中において「ノウハウとは単独で又は結合して、工業目的に役立つある種の技術を完成し、またそれを実際に応用するのに必要な秘密の技術的知識と経験、またそれらの集積」としています。
 どのような説明においても、「工業的、産業的に役に立つ科学技術的事項、科学技術的な情報・データであって、秘密状態にされているものをいう」場合が多いと考えられます。

 ノウハウは、秘密状態であるという点で、いわゆる営業秘密と呼ばれている事項と類似していますが、典型的な営業秘密である顧客情報のようなものは一般にはノウハウとはみなされないことが多いようです。したがって、営業秘密(trade secret)は一般にノウハウも含む概念ですが、ノウハウとは異なる色彩の情報もあります。

 また、ノウハウは、それを体得した者が、他人に伝達可能である必要があり、その点、技能とは異なります。しかし、伝達不可能であれば、ノウハウが問題となることはないので、この伝達可能である点をノウハウであるための要件とする説はあまりないようです。

特許出願の対象とノウハウとの区別と、処理・対応の仕方

 このように、ノウハウとは、科学技術的事項であって、定式化された技術とは別の科学技術的事項・データであって秘密にしておくべきものを言う場合が多いです。そして、特許出願の対象となる、原理的・基本的な「科学技術」とは、別に取り扱われることが多いですが、その区別の仕方は重要です。

 一般に技術開発の場面においては、学会で発表し、世の中に対して発表し、他者と差別化を図り、宣伝材料・営業材料となりうる科学技術もあれば(以下(A)参照)、秘密にしておき、公にはされない事項(ノウハウ)もあります(以下(B)参照)。それぞれ異なった処理・対応が必要となります。

(1) 特許出願の対象となる科学技術
 ・美容成分X成分を含むシャンプー
 ・加熱処理によって、柔軟性をもたせる構成樹脂の製法
 ・マウスが所定領域から外れたときに、警告音を出すパソコンの操作ガイド方法
等、技術的なアイデアの基本的なコンセプトに関しては、宣伝上訴求ポイントにもなりますし、広告でもキャッチコピーに用いることもできるので、広い概念で特許出願をしておくことが重要となります。

(2)
 一方、秘密にしておくノウハウはさらに2種類程度に分けられます。
 ・それが秘密であることを明示するが、具体的内容は秘密にするもの
 ・秘密の存在自体を明示しないもの
の2種類があります。

(2-A)
 具体的な内容は明かさないが、特有の技術であることを宣伝することは比較的、古くから行われております。コカコーラのレシピのように、「秘密であることは誰でも知っているが、その内容は知られていないもの」などがその代表例です。

 ・含まれている主成分Xは明らかだが、特殊な当社オリジナルの触媒を介して混合した特別な製法を採用しており、X成分の地肌への浸透が他社製品と違う。
→→成分そのものではない触媒等を、ノウハウとして保護し、その内容を秘密にするが、その秘密があることは宣伝コピーとして大いに使用する。

 ・特殊な加熱炉で加熱処理を行うが、その加熱炉がどのような加熱炉は秘密である。その結果、合成樹脂を炒めずに加熱処理を行っていると宣伝コピーとして使う。
→→実は、遠赤外線を、特殊なヒーターで発生させて、合成樹脂を加熱しているが、その点は秘密にしておく。遠赤外線の波長等、具体的な数値は秘密にしておく。

(2-B)
 具体的な内容は明かさず、その秘密の存在自体を完全に秘密にするべきノウハウもあります。いわゆる秘中の秘であり、存在自体も公表されません。

 ・含まれている主成分Xの効能は、実は産地によって微妙に異なるが、どの産地のXを使用しているかは、仕入れルートを迂回させる等して完全に秘密としており、顧客にも一切明かさない。

 ・加熱で用いている遠赤外線の波長スペクトルが、特殊なヒーターと可視光フィルターによって形成されている点は、完全に秘密としており、顧客にも一切明かさない。

まとめ

 上記のように、特許出願とノウハウに関してはその区別は難しい点もありますので、是非、専門家の意見を聞いておくことが好適であります。
 典型的には、コンセプトレベルの科学技術は、特許の対象として、細かい数値的な条件に関してはノウハウとして秘密にしておくというのが典型的な例として挙げられるかと思われます。
 また、その判断の基準として、宣伝コピーに入るのか否か、セールストークとしてどのような点をアピールし、どのような点を当社オリジナルと言いつつ秘密にしておく点なのか、等を総合的に判断することが好ましいです。