Nautilus事件


Nautilus Inc
v
Biosig Instrument

原告:Biosig Instruments Inc.(以下ビオシグ)
被告:Nautilus Inc. (以下ノーチラス)
対象発明品 心拍計
出願日:1992年6月9日
特許番号:5,337,753

米国最高裁判所(以下最高裁)
裁判番号No. 13–369
判決2014年6月2日

〈事件のポイント〉

 米国では35U.S.C §112によりクレームが明確に書かれることが求められています。本事件は最高裁が新たな明確性への基準を設けたという点で重要な事例です。
35U.S.C §112 (b)... The specification shall conclude with one or more claims particularly pointing out and distinctly claiming the subject matter which the inventor or a joint inventor regards as the invention.
→明細書は、1つまたはそれ以上のクレームがなければならない。このクレームは、出願人自身が発明の技術的主題とみなすものでなければならない。また、その技術的主題は特定的かつ明確に示されていなければならない。

〈事件の概要〉

 ビオシグの発明は棒状の心拍計で、両端に活性電極と共通電極がそれぞれ「間隔をあけて設置」されている。その両電極をそれぞれ右手、左手で握ることで、EMGシグナル(筋電信号)を除去しながら、ECGシグナル(心電信号)を計測することができます。
 地裁ではクレーム内で用いられた"in spaced relationship with each other(間隔をあけて)"という表現は、電極間の距離よりも広義の意味を持ち、35U.S.C §112記載は明瞭でなければならないという要件条項に違背するとノーチラス側は主張しました。

(1)まず、前審であるCAFCの判断をご説明します。

 CAFCは"spaced relationship"という言葉の明確さについて審理する際、35U.S.C §112 (b)の解釈を、「「明確」とは当分野の技術者にとって解決できない曖昧(insolubly ambiguous)さがないまた(明細書に従って)発明された技術が再現可能 (amenable to construction) であるということ。」という基準を採用しております。
 またCAFCは、更に本クレームは使用者の手より小さく電極を離すには十分な距離と説明できるとしました。そのため、本クレームには曖昧さがなく特許は有効と判決を下しました。

(2)次に、上記CAFCに対する最高裁判所の判断は以下の通りです。

 最高裁は「発明を理解しうる当業者の技術者によってそのクレームが理にかなった確かさ(reasonable certanity)をもって伝えられなければその特許は無効である。」と言及し、それはCAFCが示した明確性の基準と異なる基準であります。その結果、最高裁はCAFCの判決を退け、差し戻しにしました。
 最高裁は、実際の記述が明瞭か不明瞭かについては判断せず、CAFCの採用した基準が間違いであり、新しい「基準」を採用するべきとして、差し戻しを行っております。

〈特許出願人、特許権者側が今後注意すべきポイント〉

 第1に、最高裁が判決で示した基準を、CAFCが今後どのように適用していくか、見守っていくことが重要です。
 第2に、最高裁が示した新たな基準ではそのクレームが理にかなった確かさ(reasonable certanity)を備えているか否かが基準となります。よって、より明確にポイントを押さえて明細書を記述する必要があります。
 さらに、その用語が不明瞭となる可能性があると判断した場合、なるべく以下のような手段を講じることも好ましいです。
 (1)単一のクレームだけでは、不明瞭かもしれない用語でも、異なる権利範囲の複数のクレームで使用すると、その意味内容が明確に伝わる場合もあります。一つの用語を複数のクレーム内に用いるのは(reasonable certanity)を主張するのに有効な場合があります。
 (2)独立クレーム内で不明瞭の恐れのある用語が含まれる場合は、その用語のより詳細な内容を、下位の従属クレームにてそれを補うことは不明瞭さを解消するのに有効な場合があります。
 例「spaced relationshipの定義するところは電極が電気的に離間しうる十分な距離でありまた使用者の手より小さいといった決められた距離であること。」のような記述を含む下位の従属クレームを設けておくことが効果的な場合があります。